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東京地方裁判所 昭和47年(ワ)477号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕4 後遣症による逸失利益

<証拠>により、同原告は新潟大学工学部教授(土木工学科)であることが認められ、右認定のとおり第一二級一二号該当の後遣症を残したところ、同原告は、教授としての月給を基礎に、昭和三二・七・二付基発五五一号労働省労働基準局長通達による労働能力喪失率表における第一二級障害の喪失率に従つて推計した将来の逸失利益損害を主張する。

しかしながら、右通達による喪失率は、損害賠償訴訟上、重要な参考資料ではあるけれども、後遺障害等級が確定されればその喪失率に従つて当然に画一的に逸失利益が算定されるといつた性質のものではないし、また労働能力喪失による損害といえども、後遣障害の程度だけから一般的抽象的に評価される労働能力喪失を損害と認めるのではなく、被害者の現実の稼働状況を基礎として推計される具体的な労働能力(稼働能力)の喪失を損害と認めるものであるところ、<証拠>によると、同原告は事故後昭和四五年一〇月一七日まで勤務を休んだ後軽度の業務に復帰し、昭和四七年一月からは平常の業務に復帰したものの、右後遣症のため疲労が激しく、このため同年一一月頃からは医師と相談のうえ講義、研究に業務の範囲を限定することとしているが、講義、研究をするにも従前以上の精神的労力を要し、事故前活発に行つていた論文発表、著作活動および外部講演なども制約を受けていることを認めることができるのであるけれども、他方、同原告本人の供述と弁論の全趣旨によれば、同原告は事故後も事故がなかつたと同様の俸給を支給され、また同原告が教授の地位を任意に辞職しない限り、将来も同様であろうことが認められるのであるから、このような場合には、教授としての棒給額を基礎とする逸失利益損害は認めることができないものといわざるをえない。また右俸給以外の収入の減少による損害を考えるにしても、それを算定するための資料は本件証拠上不充分といわざるをえないし、さらに同原告が将来収入のより高い職場に転職しうる可能性を失つた損害を考えるにも、その算定資料はないうえ、同原告の後遺症は前認定のとおり他覚的所見に乏しく、前出<証拠>によればいわゆる神経症状を主体とするものと認められるから、時の経過による症状の軽快の可能性があり、将来の稼働全期間にわたり継続するものとも断じ難く、従つて、かかる意味での逸失利益損害も認めることができない。

よつて本件では後遺症による逸失利益損害を認めることはできないが、ただ、同原告は右後遺症のため現に大学教授としての活動内容およびその範囲に制約を受けており、当分の間はそれが継続するのでおろうことは肯認しうるのであるから、これを慰籍料額の算定事情として斟酌することとする。

5 慰籍料 金一二〇万円

右認定の受傷の部位・程度、治療の程度、後遺症の程度およびそのための大学教授としての活動に制約を受けていること等諸般の事情に鑑み、右金額をもつて相当と認める。

なお、右数額は同原告が慰藉料額として主張するところを超えるが、身体傷害に基づく損害賠償請求権は、財産的損害に対するものと精神的損害に対するものとを含め、一個の請求権と解されるから、認容総額において当事者の求めるところを超えなければ民訴第一八六条には反しないし、また、後遺症の職業生活に及ぼす不利益を、財産的損害と把握するか、あるいはそれを認めず慰藉料額算定の一斟酌事由とするかは多分に評価に属する面があり、従つてこのような場合の逸失利益損害と慰藉料とは性質上融通性をもつものであるうえ、当事者の訴訟活動の面からみても、逸失利益損害に関する間接事実として攻防と審理を尽くした結果を慰藉料額算定事由として考慮することになるのであるから、逸失利益損害として主張されている数額の範囲内でその一部を慰藉料主張額に流用して、慰藉料を主張額以上に認容しても、いわゆる狭義の弁論主義にも反しないものと解される。<中略>

4 逸失利益 金一〇万二三〇〇円

原告は家庭の主婦である(原告操平本人の供述により認められる)ところ、右認定の同原告の受傷の程度に照らし、事故後三月間家事に全く従事できなかつたことを肯認することができる。そして家事に専従する主婦の労働能力評価額は同原告主張の月額三万四一〇〇円を下らないものと評価すべきである(労働大臣官房労働統計調査部編賃金構造基本統計調査報告によれば、昭和四五年度女子産業労働者平均給与は年額五〇万三七〇〇円、月額四万一九七五円である。)から、その三月分一〇万二三〇〇円の主婦としての稼働能力喪失による損害を認めることができる。

次に同原告は後遺障害に基づく逸失利益を主張するが、右認定の程度の障害では未だ家事の遂行に支障を来たす程度に至つているものとは認め難い。右認定の後遺障害のうち家事労働への支障を考えうるのは股関節機能障害のみであるが、原告操平本人の供述によればそれによる支障は買物に時間がかかる程度と認められるのであつて、そのために家事労働の質が低下したり、量が減じたりする(換言すれば従前と同程度の家事を維持するのに他人の助けを要する)ものとは未だ認め難いからである。よつて後遺障害による逸失利益は認められない。

(浜崎恭生)

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